第三節 こよりの継承

昔は、草木や藁や紙しかなかった時代でしたから、簡単に保存できる紙がひろく活用されていました。紙縒りには、生活の知恵ともいうべきさまざまな逸話が秘められています。
ここに紹介する逸話から、いかに紙縒りが私たちの生活に根ざしていたかが偲ばれます。
秘密文書の隠し場所に
金品を横取りされないよう安全に隠すために、父親がそのありかを和紙にしたため紙縒りにして娘の髪の中に隠したという逸話があります。
優劣を決める
ふたりの若い兄弟の優劣が決まりませんでした。そこで父親は和紙で紙縒りを作って、それぞれ互いの親指と小指にしっかり挟ませて合図とともに引き合いさせました。
引き抜けられた方を負けとして、3回の申し合わせの末に2対1で兄者が勝ちました。
もてなし用の灯りとして
『客への真実つくすためにずんずんに引き裂き、こよりにないて行灯の火あてて火縄となして』 随筆独寝下・八
暗い中で明かりを得るため、紙縒りに火を灯しました。
停電の折の暗闇には、紙縒りに火を灯して線香のようにするとかなりの時間明るく灯されるものです。
お百度参りの願掛けに
母親が病に倒れ、床に伏してしまいました。娘は百段もの階段を上ったところにある観音様へ、願掛けに行くことにしました。
裸足で階段を上り詰めては紙縒りを一本ずつ観音様に捧げ、母親の病気が治るように百回祈願しました。
そのかいあってか母親の病気は治ったそうです。
もの忘れ防止に
紙縒りを人差し指に巻いて、用件を忘れないようにするまじないがあります。今でも忘れ物をしそうなときは、指に紐や紙縒りなどを巻いたりする人を見かけます。
長い紐として
時間があるときに紙縒りを作り溜め、長い紐にして毛糸球のようにぐるぐる巻いて保管しておきました。
必要なときに取り出して綴じ紐にしたり、網や籠、時には衣服なども作ったりしました。
短冊の紐などに
七夕の短冊の紐などに使ったほか、凧のバランスをとるための耳飾りの紐にも使われました。
また、煙草のキセルの穴掃除にも使用しました。
福笑いに
紙縒りで睫毛、目、耳、鼻、口、顎などを作って、家族とゲームをしてその表情を楽しみました。
あみだくじに
紙縒りを人数分作り、番号を書き記して手の中に番号を隠すように持ち、各自紙縒りを抜き取って順番などを決めました。
線香花火に
紙縒りの和紙(こうぞ)と松煙でこの線香花火ができます。日本人の器用さが伺えるこの紙縒りが線香花火の命なのです。
ほどよく堅く撚ることで、あの綺麗な松葉のような火花が飛び散るのです。火の玉がなかなか落ちないのは火薬の配合もさることながら、紙縒りの仕上がりが大きな決め手になっています。
紙縒りを巧みに固く撚るものは、良き妻を得るという俗説があります。
昔は、職場でも学校でも和紙を使って修業のため紙縒りの撚り方を習わされたものです。
最近ではこの紙縒りをあまり見かけなくなりましたが、昔は誰でも出来たものです。