【ビジネス教育出版社メールマガジン】

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金┃融┃コ┃ラ┃ム┃

【テーマ】
「金価格上昇の背景にある、金の需要3大理由とは?」

【執筆者】
スキラージャパン株式会社 取締役 伊藤 亮太

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 田中貴金属の税抜参考小売価格によれば、2000年当時の1グラム
当たりの金価格は平均して1,014円(最低が961円、最高が1,140円)。
それに対して、2016年における1グラム当たりの金価格は
平均すると4,396円(最低が4,140円、最高が4,655円)。
実に16年間で価格は4倍以上になっています。

 そして2017年8月末には、小売価格が1グラム5,000円を突破するなど、
金価格の上昇傾向はとどまることはなく、むしろ加速しそうな勢いです。

 一体この背景にはどのような理由があるのでしょうか。
3つの視点から探っていきたいと思います。

■金に対する消費需要が増加した

 まず1つめの理由として、金に対する消費需要が増加した点を
挙げることができます。

 特に2000年当時から見れば、新興国の宝飾品消費量は増加傾向にあり、
金現物投資の需要も含めて考えると、中国とインドの消費量が
圧倒的な割合を占めています。

 実は世界の金の消費需要のおよそ半分を中国とインドが
占めるまでにいたっており、景気や人口、政治などに影響は受けるものの、
この2国が金価格に大きな影響を与えていくことは間違いないでしょう。

 なお、2013年以降においては、中国、インド共に金の消費需要は
低下傾向にあります。代わりに米国の消費量が増加傾向にあります。

 <2016年における金消費需要>
1位 中国 913.6トン 29.8%
2位 インド 675.5トン 22.0%
3位 米国 211.5トン 6.9%
4位 ドイツ 115.6トン 3.8%
5位 タイ 81.5トン 2.7%
6位 トルコ 69.3トン 2.3%
7位 サウジアラビア 59.5トン 2.2%
8位 インドネシア 59.5トン 1.9%
9位 ベトナム 58.3トン 1.9%
10位 UAE 49.0トン 1.6%
(出所)ワールド ゴールド カウンシル

■公的部門の金保有に異変が

1990年代から2000年代前半にかけては、国家等の公的部門では
どちらかといえば金の売却を行っており、これが金価格下落に
つながった側面があります。

 

それでは今はどうでしょうか。

 

実は2010年以降は公的部門は買い越しに転じており、
新興国では金の保有量を増やしています。

これが金価格が上昇した2つ目の理由になります。

 

gold posession

 

各国の金保有の推移を示す上記の数字をご覧ください。
先進国では変わらない、もしくは微減となっているのが
お分かりになっていただけると思いますが、
中国やロシアは明らかに金の保有量を増やしています。

中国は2005年3月時点では600トンの保有であったものが、
2016年12月末には1,843トン、同時点でロシアも387トンを、
1,615トンまで増やしています。

両国共にたった10年程度で3~4倍ほどに保有量を
増加させていることがわかります。

この背景には、外貨準備の構成を変化させていることが
考えられます。

一般的に、新興国の外貨準備は米ドルに偏る傾向がありますが、
米国債務上限問題など政治問題も含め、
ドルの信認性が高いとは言えない状況にもなってきており、
米ドルに偏る構成を変えたい思惑もあるのでしょう。

数年後にこの表の右側に1つ追加したときに、 中国、ロシアが
さらに買い増しをしている可能性は大いに あると考えています。

■地政学的リスクが金価格を押し上げ

ご存知の通り、北朝鮮のミサイルが2017年8月29日に
日本上空を通過、北海道・襟裳岬東方の太平洋上に落下しました。
そして9月3日には、6回目の核実験を行い、9月15日にも
ミサイル発射を行いました。

今後も何が起こってもおかしくないような状況ともいえ、
有事に備えた動きも徐々に高まってきています。

”有事の金”で、ニューヨークでは1オンスの金価格が1300ドルを超え、
年初来高値を8月に更新しました。

いつまでこの緊張状態が続くのかは誰にもわからず、
だからこそ金を買う人が増えているともいえます。

このように、中長期的な視野からは各国の消費需要、公的部門の金買い、
短期的な視野からは地政学的リスクが金価格を押し上げる
要素となっています。

今後、金価格にも是非注目してみてください。

<伊藤 亮太 氏 プロフィール>
慶應義塾大学大学院商学研究科(専門は社会保障・年金)修了後、
証券会社の営業・経営企画部門等で活動。
2007年11月、「スキラージャパン株式会社」を設立。
個人の資産設計を中心としたマネー・ライフプランニングの
提案・サポート等を行うと同時に、企業やオーナーに対する
経営コンサルティング、相続・事業承継設計の
提案・サポートを主に行っている。

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